新生 / 口から
先日 交通事故を起こした
おじいさんは跳ね飛ばされて
かと思ったら
直立に起き上がって すたすたと歩き始めた
ゲームの中のように スターのマークを手に入れた訳でもないのに
それからなんだか 調子が狂ってしまって
毎日 考え事ばかりしていた
右足と左足とが同時に出るから 幅跳び
出会って横にひねるから 首
そうやって 周りのものに名前を付けていたんだ
ある夜 おじいさんと夢の中で
おじいさんの欠けた歯と
赤ん坊の私は対話した
それは浜辺で
ぬるい風が吹いていて
潮の匂いなどしなかった
「忘れるんだ 忘却の法則に倣って」
おじいさんの歯が私を諭す
なぜ?
なんのために?
「正に
余分な言葉が多過ぎる」
おじいさんの歯は清掃作業員にほうきで掃かれて
そのまま
忘れるんだ 忘却の法則に倣って
べらぼうに溜まった新聞を括り上げて
出会った人々の悪口をいっぺんに書き残して
私は初めて喋り始める