irohato

a_yによる詩や短歌 https://utubuse.wixsite.com/ayweb

2017-04-01から1ヶ月間の記事一覧

医者の手が頭蓋骨にふれる。割れ物を扱うように、注意深くその骨弁を脳へあてがう。 鮮烈なイメージを遺すには、詩では足りない。 ―君だったのか。夢に鯨をしのび込ませたのは?

患者の標本をつくる部屋をさばき室をと呼ぶ。排水溝は数年分の血液が溜まっていて、きみは手が荒れるから掃除したくないと言う。

映画

医者が二人、ソファのある部屋に入ってくる。私が淹れたコーヒーを飲みながら、二人は映画の話などをしている。

沖縄みやげのビールを見つからないように隠した。冷凍庫で風がねむっている。

クルー

語るために辞書を破った。片手で指笛を吹きながら、片手ではデマを連ねるような辞書だ。 三頭船員室の薄暗がりで目が覚める。床にコーヒーの染み、乱視用の眼鏡。長い間ここへいるうち、ネズミとも口がきけるようになった。 船長の姿はない。今頃、フレック…

四月の皮肉

エイプリルフールには卵を割ったらヒヨコが出てくる悪夢で親子丼はおじゃんになったけどヒヨコは成長ホルモンを与えて育てた6時間おきに食べ物の選択を迫られて添加物に発がん性は含まれていなくてそれでも駄菓子屋にすぐ死んでしまうヒヨコを買いに行く生…

なんて名前で

語ることがたくさんあるのでA5の罫線ノートじゃ足りないのだB2のわら半紙に殴り書きをして詩人たちは声を発した 消費社会に石を投げて繰り返す歴史に疑問符を打ち込んで四畳と半分の密度は高まる 3月11日の午後 詩人たちは声を発した語るべき語りは各々にあ…

1.奇怪な島に辿り着いてもう三日三晩眠りの中にいた黒い果実と死んだ魚暗雲からたちこめる硫黄の匂いに噎せた 起きて何も特別なことなどなかったいつも通りに回転していると思ったしみんなそれぞれに回転していたからあたかも止まっているように見えた 2. …

四半世紀の春

君よ、で始まる誓約を当てにしてはだめだとそれで得られるものでは暮らしていけないとわたしは繰り返し言った母の残像を追ってイヴ・サンローランの口紅を買うそれは母がかつて娘だったころのあたたかく穏やかな何か大きな期待に胸をふくらまし輝いている母…