irohato

a_yによる詩や短歌 https://utubuse.wixsite.com/ayweb

クルー

語るために辞書を破った。
片手で指笛を吹きながら、片手ではデマを連ねるような辞書だ。

三頭船員室の薄暗がりで目が覚める。
床にコーヒーの染み、乱視用の眼鏡。
長い間ここへいるうち、ネズミとも口がきけるようになった。

船長の姿はない。
今頃、フレックスタイムで昼まで眠りこけているのだろう。

友人のA氏は先の港で船を下りた。
残業がない分、金も無いと言って。
そして彼らと同じ数だけ、目を輝かせた新しい船員が乗り込む。

噂によると航海路を幾日も会議しているらしい。
機密書類のフォルダーがシュレッダーにかからないまま誰かの手に渡り、
船内で回し読みされているとも知らず。

浮かれた日々だ。
不安定に大きく左右に揺れながら、
のん気なもので、給料の配分は守られる。

私は決めかねている。
港はどんなところだったか、思い出そうとするたびに
マストに揺らめく旗が、少し胸を張って見える。

食堂で厚生委員のコックとこの船の将来について語り合う。
結論の出ないまま、彼は料理の腕を磨いている。