2020-08-27 火事 詩 川沿いのうどん屋の上流で火の手が上がるリカバリー不能のメッセンジャーのやり取りうんと前のやつ返す前にそのまま 火に焼かれて死ぬそんな気持ちで生きていたい背中のケロイドを負う少女は重たい十字架雨が降ったら良かったのに昨夜はあんなにうるさく降ったのに気圧が低くて下痢になってとても働けないなとぼやいていたのに 死んだ人ほど可能性が苦しみになる世論がどんな高みに上っても地を這って遠くに行った君の残した言葉を読みたい 2019年7月初稿
2020-08-10 たぶん一生 詩 きらきら男子の日常には草も転がらない末広がりの夜更けには恋人とのロマンチックとあるべきで横目で嘲笑して次の娯楽を待っているリアリティー番組の終わり 軟口蓋に粘っこくからんだあの人の煙草のけむりが癌みたいにずっと戦い続けるものであること幼さのために怖かった 川沿いの草むらを進んでいき身を焦がすほどの熱線を浴びて果物も一瞬で化石になる かいつまんで至った今日の足の甲に付きまとう蚊を追い払いばかみたいに膨れあがった雲の向こう側の雷に打たれに行った
2020-05-09 創造的な人々に 彼らは絵本の中の子ども教室から息切らして逃げてきたシェパードの取り逃がしの二人 彼らは宇宙テキ時間感覚で何百のイメージをていねいに摘みとる花の影、目の横の皺、草の海お日様を作るのさ、と笑った化学実験は終わらない 彼らの料理は最高だけれど同じものは二度と頂けない際どさが一層の調味料になる一言持ち上げると二人のコックは上機嫌「月のソテーが一番うまいさ」月の兎も初耳だろうて ときは四千X年から来た魂が彼らにすっぽりはまっているからわたしも魂の有るままに自由に行けるような気がする お日様が照らすのはこの星ばかりでない届かないところに居ても確かに見える子どもたち 初稿 2010年頃
2020-05-09 heureux 人差し指が入っていきそうと思う臍の暗がりに第一関節までも入らないのを確認して頬を寄せる 生暖かい海がこの中にあるんだと思う多分 わたしにも 震える膝にボールペンを突き立てて飛び上がる前に君が鉛筆の跡はぼかせる と わたしの膝をこする だから融け合わないことを知っていて契りは自分に科すもの私たちはheureuxはちみつのよだれ驚いたら 左側で聞きなれない息の音にわたしの海のさざなみを聴く
2019-10-30 詩になる身体 詩 どっちつかずの言葉が詩になるならいっそ何も知らないままで良い無知の断罪を晒して生きた証にしてみたり 主義主張のない両親の庇護の下で暮らしたいいつからかまぶたにできたシミをなぞって時間の逆流を思っている 両手の指より意識が多い三次元で生きていくにはどうやら身体を持て余す 鏡の中に母親の顔は写らない遊びじゃないのにテーブルに展開した積み木の結論何度もばらしてばらしたままのほうが良い
2019-10-28 劇場 詩 舞台袖に催涙弾を投げ壁の穴に耳打ちをし笑い声が音響になる高架下からヒキガエルが飛び出しみんなが引いている どちら側からでも迫れる強力な観念持ち合わせた おどろおどろしい漬物を箱ごと炒めてすべて使ってしまった土曜日の郷土料理の鍋敷きになる踏み固められた劇場
2019-10-28 スポッティング 詩 喜びは補正しなくちゃ色を塗って汚れたら水で浮かせてうまくやれたら立体になる 思い出づくりが得意だ趣味が合わないのはそのせいだ歌を歌えばどの音も半音上げるから愛されない音痴だ 日めくりカレンダーめくるのが勿体ない五百回くらい同じところを回ってはバターになる前に気がつくような調子 合理的なことに正義を見出して言いたいことを言おうハイトーンの思い出くそくらえ コミカルな発言に象られる空想とのギャップがリアルに引き伸ばされる補正のあとに生まれている非現実のくそくらえ