irohato

a_yによる詩や短歌 https://utubuse.wixsite.com/ayweb

四半世紀の春

君よ、で始まる誓約を当てにしてはだめだと
それで得られるものでは暮らしていけないと
わたしは繰り返し言った
母の残像を追って
イヴ・サンローランの口紅を買う
それは母がかつて娘だったころの
あたたかく穏やかな
何か大きな期待に胸をふくらまし輝いている母の残像

四半世紀を迎える朝に
教会の鐘が鳴り雨が降り出す
イメージで雨女って言われるなら
わたしの四半世紀はどこへ という短歌を
書いたのはもう二年ほど前だ
このときの感情は忘れてしまったけれど
言葉は土のように
わたしの後ろに存在している
良い良いが先に立つコミュニケーションを抜け出して
いっそ一人も清々しい
春先の雨の日は冬に着た厚手のニットの手洗いをして
ほどよい湿度の部屋の中で暖かくなるのを待とうか
何か芽吹くようなそわそわした心地で
ずっと胸がうずいていてそれが何年も続いて
ああやっぱり芽吹かなかったと
それでも良いのだ
肩を落として〆のラーメンを食べるだけだ

時間という妖怪に
へえ、へえと頭を下げて道を譲ってもらう
もし振り返れば妖怪に捕まってしまう
だから前に進むだけだ
四半世紀後も、半世紀後も変わらない
雨が止んで
四半世紀の春が来る