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a_yによる詩や短歌 https://utubuse.wixsite.com/ayweb

病院の売店

地下二階のMRI室へ続く薄暗い廊下の先に 病院の売店がある
店員はユキコとサチコの二人だけ
ユキコは必要以上にせっかちな小太りのおばさんで
サチコは必要以上に丁寧ながりがりの骨ばったおばさんだ
入院患者の楽しみといえば
外とつながることができる売店の存在はとても大きい
患者に使うおむつや保湿クリームを買いにくる家族
昼には弁当、カップラーメンを買いに来る職員も居て
ここはいつも人が絶えない 

ユキコが三人の会計を済ませるあいだ
サチコは一人か早くて二人
私はユキコのやや乱暴な袋詰めにむっとすることもあるが
かといって急いでいるときにサチコの列に並んでもいられない
透析患者がこっそりおやつを買っている
患者を亡くした家族が最後に着せる着物を買っている
ユキコとサチコはレジを打つ
私服に着替えたわたしはアイスを買うために並ぶ
並んでいる間にまた別の客がわたしの後ろに並ぶ

病院の売店は何かに合わせて脈打っている
何かとは病院全体がもつ社会共同体としてのエネルギーとか、磁場みたいなものかもしれない
ただ一定のリズムがあって 呼吸がある

地下二階のMRI室へ続く薄暗い廊下の先に 病院の売店がある
店員はユキコとサチコの二人だけ
気の利いた商品も無く気の利いた店員も居ないが
だからといって客足が途絶えることはない