irohato

a_yによる詩や短歌 https://utubuse.wixsite.com/ayweb

生活の線引き

共通認識として
あの地震の時何してたって言葉は他人事の言語
わたしを差し置いて
世間知らずになるのやめてよ
などと憤りを覚えて気が付くと
デリカシーの無さと性欲は比例する
って持論テーブル越しに沸いている

いつまでも子どもでおられない
おとこ言葉が
君のアイデンティティーに貢献するならば
賛成するけど生活の礼儀はまた別の話

不幸な想像も脳のメカニズムで説明つくって
ほんの少しのビタミンとタンパク質足りないだけ
体質でも性格でもないから安心して

いつだって明日からやるって怠惰の言語
暑くなってきたから
エアコンは今日からかける癖にさ
まあ自戒に捉われないで元気を出せよ
ところで
ブロッコリーで癌が消えるんだってね?

実家の詩

置いてきた漫画を読みたくならない、二十年の
蓄積は、幸福だったと思わなくては、やるせないのに
いつでも孤独なふりで帰れないと呟いた
母も寝床で、スマートフォンを触っているの?
誰を呼び戻したくても、今起こった小さな揺れを
怖かったねって言い合いたい、夢中で、
ドラマチックに変換しても、吐き気がするほど一人じゃないか

職安の詩

こなれたワード並べて知的なふりをしてみたり
大衆に媚びたロック・ミュージシャンも少しは好きになって
なんでも有りの判断軸はなんにもないのと一緒
無職でいるうちに
パワースポットにでも行こう なんて馬鹿げてる
今が一番人間らしいって

夕暮れの職業安定所RPGの世界みたいに
木こりに就職できますか
鍛冶屋で見習いできますか
せっかく大人になったのに
アスファルトに唾も吐かないなんて馬鹿げてる

乾杯の詩

チャンネル合わせられない悔しさがそんな炭酸で埋まるものかよ
喉を過ぎて熱を帯びているのが毒で、歌が唄えなくなる
義務感とは別に思考を越えた心情がするする語り出す
集中がとみに築かれたら、徳も積めるかな
制限時間の中で生きているから、話したいことははじめから決まっていたの
次は君の話を聞くからね、必ずね

蛍光灯

蛍光灯を新しくしただけで
照らされた四隅に見つめられている
白々しい嘘ついてるみたいな
あるいは疑う心で塗られたみたいな

海に出ても船はもう出ていない
女神の声に追い立てられている
お風呂にしますか?
ごはんにしますか?
怖い怖い幻聴

先の予定で首を絞めて
早合点で絶望しがちで幸福だ
照らされた四隅で犬が吠えている
狭い部屋で立ちんぼでも
上へのぼって息をしなくては

みえない誰か

けさ、明け方、
ベッドに火薬を仕掛けたね?
爆発音の中を
激しい雨を走っていく
肩で息をする夢はそのせいね

けさ、明け方、
ベッドの中で笑っていたね?
暖かな浮遊で
世にも穏やかな心地で目が醒めたのはそのせいね
もちろん浮遊の間
左手はベッドに置いて、そこから徐々に
身体に血液が戻っていくのを感じてた

けさ、明け方、
ひどく冷えたね?
教会の鐘鳴らなかった
代わりに、誰かが、
わたしを強く抱き寄せたのを感じた

キッチン

ご飯を作るためのキッチンで
不良むすめ
猫と煙草を吸っている
食べてもらうはずだった食事を
今しがた捨ててしまったところ

自分の分は忘れて
作ったはしから人にあげてしまうの
そういう母親を見てきたから
少女もそうやってきた
スポンジみたいに絞られるまで

やわらかな光のような
愛情の手ほどきを
まだ教えてもらえるかな
換気扇の下の小さな廃工場でも

猫の細い舌で湿った指先
感じているぬくもりが
誓わなくてもきっとまた誰かに向かっていく