irohato

a_yによる詩や短歌 https://utubuse.wixsite.com/ayweb

矛盾

救急外来に運ばれた急性アルコール中毒の患者は
カーテンに向かって唾を吐きちらす
患者の飲酒量はビール中ジョッキ十杯で
致死量の半分にも満たない
足りなかったねと師長が毒を吐く
私は師長が好きだった 

年を言うといつも若いねと言われた
二十歳から働いていれば
六年居てもまだ二十五で
しかしそれは矛盾からくる驚きで
六年ならもっとしっかりしていても良いということだ

アルコール中毒の患者は二時間かかって正気を取り戻し
ごめんねと言って帰っていった

師長が少し休もうかと言う
休憩室のテレビでは
不倫報道のあったタレントの記者会見が写っていた

私は同僚が不倫を告白したのを思い出した
嫌だ嫌だと言いながら
さほど重大には思っていない様子で
私たちはお酒でその深刻さを打ち消した

感情と倫理が時には矛盾する
「前ばかり見て、ときにはうしろも振り返らないと」
エンデの言葉だ
何度も読んだ「モモ」の言葉だ

明け方、風邪っぴきのお嬢さんが来て
もたもた診察する医師にしびれをきらし
働かなくちゃいけないから早く薬を頂戴と言った
私も同じく医師を急かしたが
あの娘は風邪っぴきで飲食店に立つのだろうか

勤務が終わる頃に思った