irohato

a_yによる詩や短歌 https://utubuse.wixsite.com/ayweb

午後五時

昨日の今ごろはたった今始まる手術のタイムアウト
予想手術時間は、という問いに
十二時間だという執刀医の言葉に
私たちは唾をのんだ

きっと助かる、と
多くのサインから希望をつないだ
私たちは拙い看護師で
上を見ればきりがなかった
それでも二人で任せられた夜だった
私たちは私たちの限りつとめた

明け方、私たちはめまいがするような朝日を浴びて
タクシーに乗って別れた
すれちがう人々はカツカツと勇み足で
それぞれの持ち場へ向かってゆくのを見ていた

夜遅く新幹線で来たという奥さんが
手術室から集中治療室へ運ばれた夫を
神妙な顔つきで見つめ、医師の言葉を聞いていた
昨日の残像

私たちの力だけではなかった
多くの人々が支え合って、夜を乗り越えた
もし、何かの磁場や引力で
私たちではなかったとしたら、などということは
けして考えてはいけないのだった

明け方のもうろうとした意識では
終わったということしか認識できなかった
アドレナリンが切れるまで
かたく目をつぶり眠りに落ちる
目覚めの夕焼けのなか
昨日の今ごろ感じた絶望は消え去り
ただ
患者とその家族がこれから越えていく
ながい夜の安泰を願った