背中
夏がどんなふうに過ぎていっても
私たちには関係がないね
からし色の明るい夜のなかで
ふたり乗りの自転車が風を切っていく
中肉中背のたおやかな背中
後ろからだまって肩に手を置いてみる
彼がわずかにぴくりと動く
(私はこの人の背中が好きだ)
丸の内の駅まで運んでもらう五分ばかりのあいだ
私たちは些細なことでけたけたと笑い
ゆく人々には少年と少女のように思われたかもしれない
今度お礼に肩たたきしてあげるよと言う
なんだよそれと彼が言う
互いに思ってもいないことを
ぽんぽん打ち放す性質だから
いちいち、信じることはないのだけれど
これから生きてゆく中で
どんな関係性に重きを置こうと
私たちの文脈上 先に進むことはないね
ちょうどこのあたりでお別れね
肩をにぎる手に力をこめる
私はこの人の背中が好きだ