irohato

a_yによる詩や短歌 https://utubuse.wixsite.com/ayweb

なんでもケンサクしてしまう日々

 

たった今、胸元あたりで首をもたげた疑問を

呼吸をするように簡単に漏らさないで

まだ胸骨の裏側で

低く苦しく唸っていて欲しい

 

なんでもケンサクしてしまう日々

タップは実はタイプより遅く

当然シナプスは光より早い

茹でたジャガイモは冷凍できるか

サランラップクレラップの違い

ソリューションという言葉の意味

まだ考えてたのに

誤字を直す間に手放した

 

0.1秒で解決していく疑問に

流れ作業で完了の焼印を入れる

それは温度が高すぎて

焦げた匂いで咽せ返る

答えらしい答えの

代わりにどぶに捨てているのは

こんな陳腐な詩を書く時間

オズの国

両性具有の股の間で
飛行船になる夢を見た
冬には雪が降り
夏には嵐が来るように
概念と固有の印象が一致する
そんな名前を未来につけた

毎日、嘘のように塗り替えて
あっという間だ
きっと子どもが大きくなれば
今よりもっと優しく珈琲を淹れるだろう
しっとりと重い夜のカーテンの隙間から
遠慮がちに顔をのぞかせて私の様子を聞くだろう

家じゅうに昔話が散ることに
片足でバランスを取りながら
薔薇の咲いた生命線を歩く
この先は3回転半でも間違いじゃないのだという
鏡のように反射している左手の中で
出会わなければ良かった星を 握りしめていたようだから

追悼

寒々しい病室を抜けて
小さな棺を抱えた春
君はてんで変わってしまって
過呼吸になるほどの涙がまだ止まらない
打楽器が地響きのように鳴り
金管が出鱈目に
木管が発作のように笛を吹く
名前の知らない楽器らが好き勝手にやっている間
君は一睡も出来ない

持病の具合を尋ねて
よく日に当たった布団を掛ける
ゆっくり休んで
休んだあと、どこに行ったら良いと
理屈のない説明で説明するのが良いのだろう

白樺の樹液を飲み干して
わずかな鎮静を分かち合う
極東に刻まれた一筋の皺
君の生きる曲線と重なっていく

 

さざなみ

湖から海の音がする
柵の内側は悦楽の入り江
切りっぱなしの大きな岩の上に寝て
ジュースになったアイスクリームを垂らし
金平糖のような夕陽に目を細める
浅い呼吸で
肺は外気の冷たさに縮む
いつまでも融け合えない

融けたい
君だけが融かしてくれる
でなければ涙を流して
体を隅々まで枯らしてしまおう
かりそめの居場所に
めいめいが意義らしいもので結ばれ
それは支柱であるという
それはどういうことなのか

君がわたしの手を引いて
どこにも書いていなくても
柵の中は入っちゃだめ
と呼び戻す

生きている限り
わたしがあなたの支柱になって
そこに生じる義務を悦び
永遠のように生きていく
黄金の湖の眩しい光
海から遠く切り離された
哲学のさざなみ

intel相容れぬ

早くしなけりゃせわしない
プライムタイムは選べない
よりどりみどりが苦手の罠

サプリでキメた
キラめきが消えた
大きな人との圧迫面談
小さくなって寝た

日にちを数えてた
足らなくて吐いた
頭打ちで終わった
やれることを探してた
明日には忘れてた

心臓は毛が生えないから震えている

火事

川沿いのうどん屋の上流で
火の手が上がる
リカバリ不能メッセンジャーのやり取り
うんと前のやつ返す前にそのまま

火に焼かれて死ぬ
そんな気持ちで生きていたい
背中のケロイドを負う少女は重たい十字架
雨が降ったら良かったのに
昨夜はあんなにうるさく降ったのに
気圧が低くて下痢になって
とても働けないなとぼやいていたのに

死んだ人ほど可能性が苦しみになる
世論がどんな高みに上っても
地を這って遠くに行った
君の残した言葉を読みたい

 

2019年7月初稿

たぶん一生

きらきら男子の日常には
草も転がらない
末広がりの夜更けには
恋人とのロマンチックとあるべきで
横目で嘲笑して次の娯楽を待っている
リアリティー番組の終わり

軟口蓋に粘っこくからんだ
あの人の煙草のけむりが
癌みたいにずっと戦い続けるものであること
幼さのために怖かった

川沿いの草むらを進んでいき
身を焦がすほどの熱線を浴びて
果物も一瞬で化石になる

かいつまんで至った今日の
足の甲に付きまとう蚊を追い払い
ばかみたいに膨れあがった雲の
向こう側の雷に打たれに行った