irohato

a_yによる詩や短歌 https://utubuse.wixsite.com/ayweb

帰る場所

聞こえていたのに返事をしなかったとおい海の底から、頑張ろうは今こそだのに痛々しいから、始めから頑張ろうなどと叫ばなくても良かったのにだから返事をしなかった 飛行機の切り取られた両翼を想像した絶望のすぐそばに希望が住んでいる穏やかな水などはな…

背中

夏がどんなふうに過ぎていっても私たちには関係がないねからし色の明るい夜のなかでふたり乗りの自転車が風を切っていく中肉中背のたおやかな背中後ろからだまって肩に手を置いてみる彼がわずかにぴくりと動く(私はこの人の背中が好きだ) 丸の内の駅まで運…

午後五時

昨日の今ごろはたった今始まる手術のタイムアウト予想手術時間は、という問いに十二時間だという執刀医の言葉に私たちは唾をのんだ きっと助かる、と多くのサインから希望をつないだ私たちは拙い看護師で上を見ればきりがなかったそれでも二人で任せられた夜…

夕暮れ症候群

朝は予定帳を書いて昼は反省文を書くでは夕方は夕方は陶酔、またはロマンチズム食べても食べても満たされないぽっかり空いた胃の中に子どもみたいに雲の味を想像しては行きとどまらない不安で唾がのぼるそこへ行けば詩ができるという喫茶店には迷った末に行…

夏はよる

夏はよる君と動物と触れ合って、火照った夕べ梅の炭酸でまかなう 足首の疲れとハイリスクハイリターンの当直と天秤にかける 人には人の乳酸菌人には人の文脈があり外れたらケッコンできないじゃあまたねってそのまたなんか来ないことを知っている十五分に一…

医者の手が頭蓋骨にふれる。割れ物を扱うように、注意深くその骨弁を脳へあてがう。 鮮烈なイメージを遺すには、詩では足りない。 ―君だったのか。夢に鯨をしのび込ませたのは?

患者の標本をつくる部屋をさばき室をと呼ぶ。排水溝は数年分の血液が溜まっていて、きみは手が荒れるから掃除したくないと言う。

映画

医者が二人、ソファのある部屋に入ってくる。私が淹れたコーヒーを飲みながら、二人は映画の話などをしている。

沖縄みやげのビールを見つからないように隠した。冷凍庫で風がねむっている。

クルー

語るために辞書を破った。片手で指笛を吹きながら、片手ではデマを連ねるような辞書だ。 三頭船員室の薄暗がりで目が覚める。床にコーヒーの染み、乱視用の眼鏡。長い間ここへいるうち、ネズミとも口がきけるようになった。 船長の姿はない。今頃、フレック…

四月の皮肉

エイプリルフールには卵を割ったらヒヨコが出てくる悪夢で親子丼はおじゃんになったけどヒヨコは成長ホルモンを与えて育てた6時間おきに食べ物の選択を迫られて添加物に発がん性は含まれていなくてそれでも駄菓子屋にすぐ死んでしまうヒヨコを買いに行く生…

なんて名前で

語ることがたくさんあるのでA5の罫線ノートじゃ足りないのだB2のわら半紙に殴り書きをして詩人たちは声を発した 消費社会に石を投げて繰り返す歴史に疑問符を打ち込んで四畳と半分の密度は高まる 3月11日の午後 詩人たちは声を発した語るべき語りは各々にあ…

1.奇怪な島に辿り着いてもう三日三晩眠りの中にいた黒い果実と死んだ魚暗雲からたちこめる硫黄の匂いに噎せた 起きて何も特別なことなどなかったいつも通りに回転していると思ったしみんなそれぞれに回転していたからあたかも止まっているように見えた 2. …

四半世紀の春

君よ、で始まる誓約を当てにしてはだめだとそれで得られるものでは暮らしていけないとわたしは繰り返し言った母の残像を追ってイヴ・サンローランの口紅を買うそれは母がかつて娘だったころのあたたかく穏やかな何か大きな期待に胸をふくらまし輝いている母…

あなたの道

1時81分心腔の扉が開くお粥の道なりの鍾乳洞扉は閉じたり、開いたりでも誰も通らない時々、間違えましたこの道はいいえ合ってますよ合ってますよでもその人は行ってしまう 火鉢つつくようにジュワッと足元が灼けて水が滲んでいたところは焦げている1時もう1…

遅めの休息

ゆうべはゆっくり休んだんだけどそんな感じしない夜中布団を蹴飛ばして目が覚めるくらいの夢は見た 雪が降るなんて聞いていなかった無茶な言い訳だな良い理由が出来たんだろうと思っていた ゴール下を守っている場合じゃなかった年を取ったから婚活の席を確…

一人暮らしも数年経って慣れた筈の料理でもまだ驚くような失敗をする煮卵のゆで卵を殻ごと煮詰めていたり酢豚のお酢を入れ忘れたり両手に抱えきれないどじを抱えて人は夢が多い娘さんよと笑うばかめこの夢はこれから零してゆくんだよけさ地下の駐車場に滑り…

手術

「けさ6時に胸痛があって来院して、状態悪くて救外で挿管してきてます。その後カテやって3枝病変ということで緊急バイパスになりました。…聞いてると思うけど、西病棟の主任さんのお父さんだって。主任さん、落ち着きなくて出たり入ったりしてるから、ふるま…

もしも毎日がクリスマスだったら

抽象的な世界平和のプランを君はすてきだと笑った彼のボーナスは36万で私は38万で 見せあって笑っているこんな金額では世界を変えれないが心が穏やかな時間のほうが大切だと思う 抽象的な言葉をたまにこぼしてだから話は平行線クリスマスの代わりの約束をそ…

12月の絶望と希望

12月になったのでカレンダーの下半分を破るもう12月かあ、という気分で一瞬、自分がとてつもなく長い時間をあっという間に飛び越えてきたのだ、という気になる たったの24時間を30回前後繰り返してそれを11回繰り返した当たり前の結果だのに 深夜2時おもむろ…

今日(こんにち)のこと

恋人が出来たら何か変わると思っていて変わらなかったから 15歳のまんま時を止めた兄に彼女ができてラ・マルミットで会合ねと嫌だよ めんどくせえ住所教えるから お前会いに行けよと歯の浮く照れ隠しを 複雑な心持ちで聞いていた 良い人に良い人をお与えくだ…

鋭角な論破

もしもひと筋理論があればそうしてきみを理詰めにするけどそれは美しいか 各人の中に 目的があって前提があって事実があって理由があって結論がある 葉があって枝があって幹があって根がある 鮮やかな論破の鋭さを認識しなければならないときには目的を見直…

孤独

誇り高い患者はだから足を切り落とすことを選んだ家に火を点けて楽しんでいる気の狂った医者は明滅する炎の中に自己のアイデンティティを性欲へ置き換えたそしてようようと軍歌を歌いチェーンソウを握り足を切り落とすそうして その日一日は上機嫌なのだがふ…

つよい心

耳鳴りがするのは誰の鼓動。私の情動。 夜の帰り道きみはスクランブル交差点の真ん中でポケモンハントに夢中になっている軽自動車の内側でふと目が合えば、恋車ごしに恋に落ちる。 電信柱に立てかけられたゴミ袋が路上の誰かに手向けられた花束に見えてさ顔…

発音しないpの音

発音しないpの音の中に何の夢想をみるだろう この喫茶店は煙草が吸えるよと伝えると 彼は今、妊婦さんいるから と言った見ると私たちから遠く離れた席になるほど妊婦が穏やかな表情でわきにも幼い子どもを連れてこの店の名物のチキンライスを食べているそし…

子どもと大人のライヴに行こうと淋しいってことを率直な言葉で家族にしてきたみたいに 曖昧な境界線を引いてきたじゃないか君だって気のせいでなければ男女であるということさえ曖昧であったような気がする 帰り道 靴擦れをして呆れながら運ばれた背中から思…

中川運河から

せき止められた言葉があるなら私は行き止まりの川のうっそうとした茂みや平面構成されたRPGの世界のような川辺の工場や彩度の低いこの街で滲み燃えている洗濯物や花の赤い色の中にそれを見る 会話は川に流されて幾度もゆきすぎる列車の音にかき消されて私た…

詩人として

たましいが風船だとするとその風船はかならず少しずつしぼみながら漂っていく 数学と音楽と詩は頭が良くないとできないことだって 誰かが言ってたなというよりかはもっと本能的に詩をつくるひとに向かっていく詩をひとを愛する詩を 言われて嫌だった言葉を読…

まさか

私たちのヒガイシャ意識は日々向上していきまする皮肉を言うときには必要ないから今は国語辞典も売れない珈琲一杯と自転車のカギの金具が同じ値段だなんて、わたし絶望する間もなくスーパーでもやしを買った私たちはまさかに強くならなくちゃいけない神妙に…

シソーラス、言葉の海

シソーラス だなんて変な言葉だ類語辞典のことだと知ってはいるけれど信じられないシソーラスだなんて シソーラスは 大海をゆく船七つの海を越えて宇宙へもゆかんとする世界中の注目を浴びて船長は誇らしく舵をきる シソーラスは 土曜と日曜のこと今度のシソ…